原子力規制委員会の新規制基準に対する「私たちの見解」

新たな“安全神話”に基づく原発の審査、再稼動は許されない

2013年7月3日
原発ゼロの会・大阪

<はじめに>

 2011年3月11日の東日本大震災とともに発生した東京電力福島第1原発の事故は、今も15万人もの人が避難生活を強いられ、周辺地域は立入禁止、農業も漁業も産業もできない深刻な状態が続いています。事故を起こした福島第1原発1~4号機では、放射線量が高くて今にて炉心損傷の状態もつかめず、さらに最近では岸壁近くの地下水のストロンチウムやトリチウムの濃度が次第に高くなって来ているなど、“収束”とは程遠い実態にあります。

 そんな危険な原発が、「原子炉は五重の壁に守られている」「放射能が外に飛び出すことはない」「事故が起きても安全性は確保される」と宣伝され、ついには「原発は絶対に事故を起こさない」ものとして、苛酷事故の発生を想定することすら封じ込められ、対策が放置されて来たのが日本の原発の歴史です。

 これがいわゆる“安全神話”の内容ですが、原子力規制委員会が6月19日に決定し、21日には閣議決定され、7月8日から施行される「新規制基準」は、「福島第1原発の事故を教訓にして……」といいながら、実際は全く同じ考えのうえに、“もう少し対策を取れば原発は事故を起こさない”という新たな“安全神話”に基づく審査基準になっています。

1.いかなる場合も「対策設備」は損傷を受けないという“安全神話”

 例えば、原発の炉心損傷防止・格納容器破損防止対策の審査ガイドを見ると、原子炉で事故が発生し、非常用復水器(IC)や原子炉隔離時冷却システム(RCIC)、さらには非常用炉心冷却装置(ECCS)などが機能を失った場合の対策としては、「代替注水設備等による炉心冷却機能の確保」「早期・大容量の代替注入による炉心冷却機能の確保」などが書かれています。即ち、もう一つ非常用の炉心冷却装置を追加すれば、“安全性”は確保されというのです。

 福島第1原発の事故で、非常用炉心冷却装置がどうなっているかは今だに解明できていませんが、地震などによって非常用炉心冷却装置などが破壊されるような事態にあって、それに代わる「代替注水設備」が損傷を受けないなどという保障はどこにもありません。むしろ共に損傷を受ける可能性の方が高いと考えるのが常識的です。新規制基準はどんな場合も「代替注水設備」は地震等の影響を受けないという想定です。

 使用済み核燃料貯蔵プールの燃料損傷防止対策でも考え方は同じです。即ち、使用済み核燃料貯蔵プールの冷却系の故障によってプール水の温度が上昇し、やがて沸騰し始め、蒸発によってプール水が減少し、水位が低下する。冷却系の回復やプール水が補給されないならやがては燃料が損傷するという事故への対策は、「可搬式代替注水設備によるプール水の補給機能の確保」です。何もない時の事故なら車など可搬式代替注水設備によるプール水の補給も可能かも知れませんが(それとても放射線量が高くて近寄れない場合もある)、地震などの時は設備が同時多発的に損傷を受け、建物は倒壊し、地面には亀裂が走って車も動かせなくなるような事態が想定されます。核燃料貯蔵プールだけが被害を受けて、代替注水設備は被害を受けないなどという想定は、最初から現実離れした発想です。

2.「五重の壁」に代わって「深層防御の考え方」を強調する“安全神話”

 新規制基準は、こうした対策・防御を「深層防御の考え方」と呼び、この考え方の下に安全機能喪失時の炉心損傷防止対策、格納容器破損対策、放射性物質拡散抑制対策を取らせるので、原子炉施 設の安全性は確保されるというのです。そして、原子炉の安全性は「基本的には設計で炉心損傷を起こさせない対策を取ることによって担保すべき」だといいます。

 要するに、設計で炉心損傷を防止する対策、格納容器が破損しない対策、放射性物質の拡散を抑制する対策を取らせれば、“原子炉は損傷しない”“格納容器は破損しない”“放射性物質は拡散しない”、従って、原子炉施設は安全だというのですが、しかし、その中身は前項でも見たように、対策として新たに追加する設備はいかなる場合も被害を受けないという想定に立っています。巨大な地震や津波が発生した場合、事故発生の可能性は全ての施設に等しく襲いかかって来るのであって、“防止対策”“破損対策”“拡散抑制対策”として追加した施設が、地震・津波被害の埒外にあるなどということは、到底あり得ません。

 電力各社とかつての原子力安全委員会などは、原子炉は“五重の壁”によって守られているから絶対に安全だといってきました。それが福島第1原発の事故で通用しなくなり、今度は“深層防御の考え方”を強調し、幾重にも防御策を取るので“原発は安全だ”というのです。しかし、“深層防御”による安全は、“五重の壁”による安全が破綻したのと同様に、原子炉の安全性を保障するものではありません。

3.「世界一厳しい規制基準」という“安全神話”

 安倍首相は、日本の原発は“世界一厳しい基準”をクリアーした安全な原発だとして、世界に輸出しようと盛んにトップセールを行っています。これが、国内では原発の新増設が望めなくなった原発メーカーをはじめとする“原発利益共同体”の人たちに救いの手を差しのべるものであることは誰の目にも明らかです。福島第1原発事故の真相も解明できていない段階で、日本の原発を安全などと称して外国に売り歩くなどということは、深刻な被害をもたらす原発事故を世界に拡散して回る“死の商人”に等しい悪行といわざるを得ません。

 それは別にして、原子力規制委員会は新規制基準を“世界一厳しい基準”といいますが、その実態は「福島第1原発事故の例では免震重要棟のガスタービン発電の燃料供給に3日程度を要した。従って、少なくとも外部支援がないものとして7日間評価する」となっているように、ベースは福島第1原発の事故であり、世界の原発の過酷事故を網羅したものではありません。また、自然災害対策にしても国内の過去の事例を参考にしており、決して世界の最悪事例をベースにしているわけでもありません。しかも、竜巻に対する影響評価ガイドの「附則」では、「なお、将来に観測された竜巻の最大速度が、過去に観測された竜巻の最大速度を上回った場合は、本設計の妥当性について再度見直す」と逃げ口上まで用意している始末です。

 正直といえば正直ですが、想定した自然災害を上回る災害が発生することを見越し、その災害で原発が事故を起こせば、またゾロ“想定外の事象”による事故として片付け、また新しい「規制基準」を作れば良いという態度です。“世界一厳しい基準”などというのは、とんでもないまやかしです。

4.原発ときっぱり手を切り、原発ゼロ・自然エネルギー推進に転換しよう

 この他にも新規制基準には、①重大事故が起こった場合に無くてはならない免震重要棟やフィルター付きベントは計画さえあれば5年間は猶予する、②地震対策では原発直下の活断層の“露頭”(地表に露出している断層)のみを問題にし、露頭がなければ設置を認める、③運転期間は原則40年といいながらも「特別点検」を受ければ60年まで延長できる、④原発が苛酷事故を起こした場合の周辺住民の避難方針や防災対策がまったくないなど、抜け穴だらけの、「再稼動ありき」の規制基準となっています。

 日本国憲法は、国民に対し「健康で文化的な生活を営む」ことを永久に犯すことのできない権利として保障しています。いかなる企業も利潤追求のために人々の生活を破壊し、生まれ故郷を追い出すなどということが許されるはずがありません。

 いま求められることは、何よりも福島第1原発事故の徹底解明とともに、“廃炉”に向けた研究と実践に全力をあげることであり、東京電力の加害者としての責任と原発政策を推進して来た歴代政権の責任を明確にして、原発事故で故郷を追われ生活基盤を失った人たちへの被害補償と除染の徹底などで帰れるための環境づくりに総力をあげることです。

 いったん苛酷事故を起こせば人間の手に負えない事故に発展して甚大な被害をもたらす原発。その稼動によって生成する放射性廃棄物は処理方法がないだけでなく、既に貯まったものを今後何十万年も管理し続けなければならない根本的な問題を抱える原発。さらに生成されるプルトニウムはいつでも原子爆弾の原料に転用される危険性を持つ原発。こんな原発とはいま直ぐ手を切って、自然エネルギー・再生可能エネルギーの推進、省エネ・低エネルギー社会の実現に向うことをキッパリ決断すべきです。

 新たな“安全神話”に基づく原発の審査、再稼動に反対し、原発ゼロ・自然エネルギー推進の社会への転換することを強く求めます。

以上
 

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