川内原発稼働差止等仮処分の申し立てを却下した
鹿児島地裁の決定に抗議する
2015年4月23日
原発ゼロの会・大阪
事務局長 中村毅
鹿児島地方裁判所(以下、鹿児島地裁)は4月22日、九州電力川内原発1・2号機の稼働差止仮処分の申し立てに対し、「債権者らの申し立てには理由がないとして、これを却下する」決定を下しました。
住民が稼働差止仮処分の申し立ての理由として挙げた3つの問題について、決定は次のような判断を示しています。即ち、第1の「基準地震動」問題について「確率論的安全評価によって算定された基準地震動の年超過確率が10-4/年~10-5/年程度とされている」等々を考えれば、耐震安全性は問題ない、第2の火山問題については、「カルデラ火山の破局的噴火の可能性は十分に小さいとは言えない」が、その意見は火山学者の多数ではない、第3の避難計画については「本件原子炉施設からの距離に応じて区分された三つの地域に応じて採るべき避難行動が具体的に定められている」、等々です。
鹿児島地裁のこの判断には以下の様な問題点があります。
第1の基準地震動ですが、原子力規制委員会が定めた基準地震動(想定される最大の地震動)は、既往地震の平均像で策定されており、日本もっと言えば世界の地震を取り上げて、その中の最大の地震から策定されたものではありません。自然現象は常に我々の狭い経験則をはるかに超える形で発生します。だからこそ福井地裁決定が示したように僅かこの10年間で、4つの原発で5回も想定基準を超える地震が発生しているのです。川内原発の耐震設計も同じ思想でされており、同じ過ちを繰り返さないという保障はどこにもありません。
第2の火山問題、特に「破局噴火」については、南九州地方に多く見られるカルデラの多くが破局噴火によるものであり、それが過去に何回も起こっているのです。だからこそ石原火山学会原子力問題対応委員会委員長も「(原子力規制委員会の)適合性審査の判断に疑問が残る」と述べているほどです。九州電力は、①カルデラ噴火はあるが今はその周期にない、②破局的噴火の兆候は見られない、③カルデラ火山の下に大規模なマグマ溜まりはない、従って、火山問題は無視できると主張していますが、鹿児島地裁の判断は九州電力の主張をそのまま受け入れているといわざるを得ません。
第3の避難計画の問題は、単に避難計画があるかどうかだけでなく、その内容も細かく吟味されなければなりませんが、多くの場合そうなっていません。例えば関西広域連合は『関西防災・減災プラン』(原子力災害対策編)を持っていますが、細かく検討すれば避難者規模が大きすぎて、例えば、避難時のスクリーニング一つとってみても実行不可能な計画になっています。何よりも先ず、一企業の起こした事故で、周辺住民の全員が故郷から遠く離れた見ず知らずの地域に強制的に避難・移住させられるという事態を鹿児島地裁はどう考えているのでしようか。重大な人権侵害とは映らないのでしょうか。
鹿児島地裁の決定は、以上のように重大な問題点を持っており、到底容認できるものではありません。
鹿児島地裁がこのような決定を下す背景には、第1には専門家の見解は正しく、司法はそれを裁くことはできないという敗北主義、第2は国が進める政策(ここでは原子力推進政策)には異を唱えられないという追随主義があると言わざるを得ません。実際、決定は「新規制基準」について「多数の専門家によって構成さる合議体によって検討・審議を行って上、…専門的知見を有する原子力規制委員会によって作成されたもの」と述べ、新規制基準は合理的で、正しいものと言う前提から出発しています。
いつの時代も原発推進者、電力会社や原発メーカー、それを審査する国の行政担当者、擁護する学者や政治家は、原子力発電所について“事故は絶対起きない”“絶対安全”と言って原発建設を進めてきました。裁判所はそれらの見解を正しいものとし、司法としての判断を放棄して、住民からの訴えを却下し続けてきました。その結果が福島第一原発の事故です。誤った判断を下した司法の責任も問われます。
鹿児島地裁の裁判官は、今後、この誤った決定を下した責任を厳しく問われ続ける必要があります。
以上